第6章 トラウマ
窓越しに兄の柊は止まない雨を見上げる。ため息を吐きながらカーテンをシャッと閉めた。
家族がバラバラになったあの日も雨がひどかった。
柚が5歳の時だった。熱を出して幼稚園を休んだ柚を家に寝かしたまま、母親は浮気相手の元に走った。
ふと目が覚めた時母親がいなくて、柚はパニックになって裸足のまま大雨の中を母親を探しに出かけた。
響く雨音と雷鳴に怖くて泣きながら歩いていると、たまたま顔見知りの柊の同級生の母親に保護されて、父に連絡が入った。
そこからずるずると母親の不貞が明らかになり、両親は離婚した。それ以来母とは顔を合わせていない。
もう10年以上経つのに、まだ柚のトラウマは治らないままだった。
「ねぇ、柚ちゃんって何で雷が苦手なの?」
敷布団の上でストレッチしながら蜂楽は柊に尋ねる。一夜にして皆が知るサッカー選手となった彼。
なんだか同じ部屋にいるのが信じられない。
「…君はストレートだなぁ、蜂楽くん」
「だって柚ちゃんのことなら何でも知りたいし?」
とんでもない爆弾発言な気がする。いや、何となく好意は持っていそうだが。
「もしかして柚のことが好きとか?」
兄としては否定してほしい気持ちと反対の気持ちが半々だ。
蜂楽がいい子なのはちゃんとわかっているが、付き合うとなると話が違ってくる。
「うん!柚ちゃん可愛くて、優しいし。俺の話ちゃんと聞いてくれるんだ♪だから好き」
「…もしかして、付き合ってる?」
「ううん。でも付き合うつもり。よろしくね、お兄ちゃん♪」
本当は一緒にサッカーができる弟が欲しかった。けれどあんな妹でも可愛いところもあり複雑だ。
柊はその日、妹が結婚してぱっつん前髪の可愛い義弟ができる夢を見た。
夢の中で、妹が結婚したことよりも弟ができた方が嬉しかった。