第6章 トラウマ
「停電?懐中電灯どこだっけ?」
部屋からスマホの灯りを頼りに兄が出てきた。
「俺、停電って初めてー。何したらいい?」
蜂楽は柚から手を離して、兄の方を向く。
待って、離れないで。柚は手を伸ばして、蜂楽の腕を掴む。
「…ひとりにしないで……」
「柚ちゃん?」
まるで蚊の鳴くような柚の声。暗くて表情までは見えないけど。
「蜂楽くんは柚のそばにいてやって。ブレーカー見てくるから」
停電が復旧する間、柚の部屋に入って待っていようと、蜂楽はドアノブを回した。
暗がりにぬいぐるみがたくさん、ベッドの上に鎮座していた。
そのうちのひとつを柚は引っ張ると、ぎゅーっと抱きしめる。
腕を持っていてもらってよかったのに。
窓の外でまた稲光りがして、数秒経ってゴロゴロと音が鳴る。
柚の肩がビクッと揺れた。
「もしかして、雷が苦手?」
怖いものなんてなさそうなのに意外だ。そういや学校でも雷が鳴った時震えてたっけ。
柚はぬいぐるみを抱きしめたままうつむいている。
反対に蜂楽は台風とかでわくわくするタイプ。ちょっと意地悪したい気分になった。
「ちょっとお兄ちゃんの方、見てこようかなぁ〜」
「だめっ!」
立ち上がる素振りをすると柚はぬいぐるみから片手を離して、蜂楽の手を掴む。
ハッとした顔をしてすぐ手を離した。瞳に涙がにじんでいる。
「…すぐ戻ってきてね?」
「ごめん、やっぱ行かない」
尋常ではない柚の怖がり方を見て蜂楽は反省して、停電の間は絶対離れないと誓った。
柚の手を取り、指を絡めて握る。細くて、小さくて、自分とは全然違う。
「こうしてたら、少しは怖くない?」
柚はこくんと頷く。
もしかして柚は自分が思っているより、ずっとか弱かったんじゃないだろうか。
(守ってあげなくちゃ)
他の誰でもない、俺が。そう思った瞬間、柚を抱きしめていた。
「…蜂楽くん?」
「柚ちゃんが好き。俺と付き合って」
絶対離さないから。