第4章 かいぶつ
楽しかった修学旅行が終わり、季節は冬。サッカー部は選手権の真っ最中。学校では期末テストがもうすぐだ。
放課後、柚はクラス担任に進路希望票を提出するため職員室にいた。確か締め切りは明日までだったはず。
「ちゃんと親御さんと相談したか?個別懇談はお父さん来れないんだろう?」
「はい」
返事はしたものの、正確には親には相談していない。兄にはしたけど。
柚が幼い頃に母親が不倫して両親が離婚した。
兄と一緒に父親に引き取られたが、海外赴任が多い父に子育てなんてできるはずがなく、祖父母と生活するようになったのは5歳の時。
母親とはそれ以来会っていない。どこにいるかもわからないし顔もよく覚えていないが、母は笑って嘘をつく人だったことは覚えている。だから今も愛想笑いは嫌い。
結果、柚は無愛想とかよく言われるが気にしてない。
父親も最近は正月にしか会わないし、個別懇談はおろか、入学式にも来たことはなかった。学校で必要なことは7歳上の兄が代わりにしてくれる。
「それと進路希望票出してないのあと蜂楽だけだから、伝えといてくれるか?」
「…わかりました」
(先生、私のこと蜂楽くん係だと思ってない?)
直接言ってよ、という言葉は飲み込む。
今まで何度か席替えがあったけど、いつも隣になるのは蜂楽だ。きっとあの担任が細工しているに違いない。