第3章 修学旅行
(そうだ、一緒に見よう!絶対楽しい)
女子はひとつ下の階に泊まっている。廊下は教員が立っているからバルコニーから行くしかない。蜂楽はひょいっと身を乗り出す。これぐらいの高さなら余裕のはずだったが、着地の時にがたんと大きめの音がした。
「うわ、やべぇ」
顔を上げるとびっくりした顔の柚と目が合った。すぐ真下だったんだ、ラッキー。
柚は危ないだの、部屋の中でリフティングはだめだの言っていたが、蜂楽の横にちょこんと座って動画を見始めた。
「この人、知ってる。糸師冴。すごく上手くてかっこいいよね!」
蜂楽は少しだけムッとする。他の選手見てもかっこいいなんて言わないのに。糸師冴のファンなのか?
「今の見た?すっげぇゴール!」
「本当すごいね。海外の選手はやっぱりフィジカルが違うのかなぁ?」
柚は隣でにこにこ笑う。いつかこんなゴールを決めたら、おれのこともかっこいいって言ってくれるかな。
少しして、柚はあくびをして舟を漕ぎ始めたと思ったら後ろにごろんと倒れた。スースーと聞こえる寝息。
「あれ、委員長?あ、寝ちゃった…」
気がつけば消灯時間直前。そろそろ自分の部屋に戻らないと、また先生に怒られる。
「委員長、また明日ね」
「ん…、ばちらく…」
長いまつ毛、桃色に染まった頬。いつもよりあどけない無防備なその寝顔。ぷっくりした唇で名残惜しそうに自分の名前を呼ぶから離れがたい。
(可愛い…)
蜂楽は柚の顔をまじまじと見て、顔を近づける。
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
やばいやばい、先生かも。バレたら怒られるだけじゃ済まない。
「おやすみ、…柚ちゃん」
あんな可愛い子は可愛い名前で呼んであげなくちゃ。
蜂楽は急いで部屋を出て、バルコニーからまた上によじ登る。
「柚?ちょっと寝てんじゃん。窓開いてるわよ、まったく…」
ノックしたのは、部屋に戻ってきたマナで、蜂楽はセーフと胸を撫で下ろした。
(キスしそうになった。反則だろ、あれ…。
委員長は友達、友達、友達…、と。よし!)
蜂楽は心の中で呪文のように友達と唱える。可愛い女の子でも柚は唯一の友達。
友達じゃいられなくようなことは絶対にしたくなかった。