第15章 Z=14 完璧な医者と不完全な魔導士
「ルーチェさんは、悪い人じゃない。シーラさんのことも謝ってたし、葬儀で泣いてた。今だって、司のために来てくれた。……俺は信じる。」
そう言って深く頭を下げる大樹。ルーチェは唖然としながらも、彼の真剣な瞳を見つめた。
「頭を上げてください。……怪我人を救うのが私の役目。できる限りの手は打ちます。」
大樹が顔を上げたとき、羽京の顔もわずかに和らいでいた。
だが、南だけは、納得できないのか、ルーチェのことを睨み続ける。
そこへ、司がそっと呟いた。
「…み、みなみ……俺は…だい、じょぶ、だ。ルーチェに…任せたい。」
司のその言葉を聞き、南もようやく納得したのか、立ち上がって、ルーチェたちの方に向かって歩き出す。
「…司さんに何かあったら許さないから…」
すれ違いざまに南はそう呟き、入口からでていった。
ルーチェは南と入れ替わるように、司の枕元に座り、カバンの中から紙とインク、それから羽根ペンらしき物を取り出す。
それから司の腕に触れ、脈を取り出した。
「……ルーチェ、まさか魔導を使って……?」
「今は、体内の状態を視る魔導だけ。もし、使ってほしくないなら言って」
司は一瞬迷ったような表情を浮かべるも、すぐに優しげな表情に戻り、大丈夫、と呟く。
ルーチェは静かに、"スペクティア"と唱え、司の全身、そして患部を見ては、紙に逐一記録を残す。
簡単な診察と問診をした後、包帯を交換し、痛みを和らげるための催眠魔導をかけた。
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