第10章 Z=9 科学の光と叡智の陽
千空の軽いノリでありながらも信用しろ、という言葉をきいて満足そうに頷くと、キールはみんなの前から消えていった。
村民たちは、いまの光景に呆気にとられているのかただ無言だった。
ゲンは、ルーチェの隣にたったまま、さっきキールに投げた質問を口にした。
「ルーチェちゃん、もしかしてだけど、さっきの男の人が敬愛する先生、だったのかな?でも死んだはずだよね?なんで俺らの前にしかもここに現れたの?」
「恐らくだけど、今のは夢幻魔導。我々魔導士が死ぬ時に残すと言われている魂の断片。キール先生はいつかここを訪れた魔導士にメッセージを残すためにここにその断片を残した。」
そう告げるルーチェはどこかほっとしたような表情で、それでいて、そのピンクの瞳には今にも溢れそうな涙が溜められていた。
ルーチェの話が本当なら、ルーチェは敬愛する師匠を2度も失ったことになる。1度目は戦場で、2度目は今この場で。
それはどんなに強い魔導士であれ、感情を持つ生物ならだれしも耐え難きこと。ゲンはルーチェの前に体を移動させ、すくっと、涙をぬぐってやった。
「ルーチェちゃん、その先生、でいいのかな?先生はたしかにいなくなっちゃったかもしれない。でもきっと、この図書館だけはルーチェちゃんのために遺してくれたんじゃないんかな。気持ちの切り替えはなかなか難しいけど、泣いてばかりだと、先生もあの世で安心できないよ。」
ゲンがそう言うと、千空もはぁ、とため息をついてルーチェの方にヅカヅカとちかよる。
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