第10章 Z=9 科学の光と叡智の陽
「ルーチェちゃんのもう1つの呼び方、かな。ただ、お母さん以外に呼ばれるとものすごーく怒ってたのにねぇ。」
ゲンが説明すると、なーるほど、と納得する村民たち。
そんな村民たちのことなどお構い無しに、ルーチェは、懐かしさから、涙をながして、ただ一言、口を開いた。
「キール、先生。」
「ルゥルゥ、よく来られたね。いづれシーラくんがここの鍵を君に渡すと信じていたよ。」
先生、と叫びながら飛びつくも、ルーチェは上手く掴めず、その場に転んでしまった。
キールと呼ばれた男は、いつまでたってもかわらないね、と透けた手でルーチェの頭を撫でると、ルーチェは体をおこして、改めて礼を捧げた。
「キール先生、ご機嫌麗しゅう。」
「今日も立派だね、ルゥルゥ。さて、この図書館に来たということは、宵闇の魔導士と戦うことになったのかね。」
「はい、先生。母様が…その…宵闇の力に支配されているようで…」
「そうか、シーラ君が、そんなことに…」
ルーチェが悔しさと悲しさを混ぜたような憂いを帯びた表情を浮かべながら現況を報告すると、キールも先程の無機質な声に憂いを含ませて一言声をかけた。
一瞬だけ、寂しそうな表情を浮かべたあと、ふっと薄く横に長い唇で弧を描くと、その透明な手でルーチェの頭の感触を感じ取るように優しい手つきで撫で始める。
「ルゥルゥ、シーラ君を救う方法がもしかしたらここにあるかもしれない。それを見越してシーラくんも"鍵"を渡したのだろう。」
「先生…」
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