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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第5章 短編


煙草の火が静かに燃えている。

甚爾の腕枕に頭を預けたまま、紫苑はぼんやりと煙を吐いた。

静かな夜。

心臓の音だけが、穏やかに響いている。

「ねえ」

「ん?」

甚爾はぼんやりと天井を見つめたまま、短く返事をする。

紫苑は細く煙を吐きながら、何気ない声で言った。

「もし、私にあなたの子ができたら……どうする?」

甚爾の指先が、僅かに止まる。

すぐに、くつろいだような笑みを浮かべた。

「そりゃあ……俺は別にいいけどな」

紫苑は目を細める。

「いいの?」

「悪い理由はねえだろ」

甚爾はそう言って、紫苑の髪を軽く指で弄ぶ。

「お前が産みたいなら、止めねえよ」

名前はタバコを咥えたまま、ふっと笑った。

(ああ、この人は欠片もそんなこと思ってない)

甚爾の声は穏やかで、言葉も耳障りがいい。

けれど、その瞳には何の感情もなかった。

紫苑はそれを見て、ほんの少しだけ胸が冷たくなるのを感じた。

「……そう」

紫苑は灰皿にタバコを押し付け、シーツを引き寄せる。

「まあ、そんなこと起こらないけどね」

甚爾は軽く笑う。

「しっかりしてるもんな、お前」

「当然でしょ」

紫苑は目を閉じた。

「……あなたの子供が不幸になるのは、目に見えてるもの」

甚爾は何も言わなかった。

ただ、また煙を吐き出すだけだった。
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