第19章 偽り
「帰る。」
「え?……待って!ごめん、もうセックスしたいなんて言わへんから…。」
帰ろうと彼の頭を寄せて立ち上がると、しがみつかれて必死で止められる。
どうせあなたは言う気がないのだろう?
私が初めての恋人ではない、あの人と付き合ってたって。
ちゃんとあなたから言ってくれたら、そのことは許すのに。
「ねぇ、もういい、保留もなし。さようなら。」
「え、待ってや!謝るから行かんで。」
「嘘をつく人とこのまま一緒にいれると思う!?別れる!」
彼の手を振り払って出て行こうとすると、腕をギュッと握られて力が強すぎて痛かった。
嘘とはなんのことだと言われるが、なんで私から聞かなきゃいけないの。
待って…。
少し冷静になって考える。
彼女が嘘を言っているようには見えなかったけど、嘘だとしたら?
彼からちゃんと聞かずに決めつけたらいけないのではないか?
でも、私から聞いて嘘だったと言われるのも嫌だ。
「なんのことかわからない?私の口から言わなきゃいけないの?あんなこと…。」
目を開いて困惑した瞳で見てくる。
「本当に、私が初めての恋人?」
目を見開いて、なんで知ってるのかと言っているようだ。
なんで私がこんなに苦しまなきゃいけないの?
ただ、あの日助けてくれた人に憧れて、好きになっただけなのに…。