第3章 辛苦
あんなに酷いことされたのに、好き……どうしようもないくらい好き…。
もう言ってしまいたい…でも困らせたくない、不快に思われたくない。
「ふくたいちょおー……うぅ、うっ…。」
廊下に声が漏れないようにボソッと呟くように言葉を発し、副隊長に縋り付いた。
本当にもう、どうしたらいいかわからなくなっていた。
好きなのに言えなくて、尻軽だと思われて、酷いことされて、それなのに優しくて……歪んで近付いた距離は、ただ想いを大きくさせただけだった。
「また泣くんかあ?どないしてそんな僕のこと呼ぶん?」
あやすように頭を優しく撫でながらそう聞いてくる。
もうしたくないか?と聞かれるが、肯定すると私は異動になる。それは嫌だ。
やむを得ない事情があっての異動なら応じるが、こんなことでここから離れたくない。
こんなこと、ではないが…。
「三浦、お前ほんまに西野誘ったんか?僕からしたら、男の誘い方も知らんように見えるけどな。」
ギクッという風に反応してしまったが、抱きつくように副隊長の背中に手を回して服を握った。
「また黙りかいな。子供ちゃうねんから、ちゃんと喋りぃや。」
否定も肯定も出来なくて、黙り込んでしまう。
何か上手い言い方は出来ないものか…。
ここで言ってしまえば、西野先輩は除隊になるかもしれないし、そのことを知っていた副隊長は何故報告しなかったのかと問われるだろう。
否定も肯定もしない。
だけど、これだけは知っていて欲しい…。
「す、好きなっ、人とだけ、こういうこと、したいっ、です…。」
嗚咽でちゃんと喋れないや。
副隊長はただ一言そうかとだけ言って、あとは黙ったまま私が泣き止むまで、頭を撫でたり背中をさすったりしてくれた。
泣き止むと副隊長室を追い出された。