第1章 私の恋 夏油傑 (出会い編)
「俺ら二人行かなくても余裕の任務だったな。」
「ま、お陰で時間余って遊んでたんだ。」
「ー。早く取ろうよ。」
「はい!そうだ、このくまちゃん取ろうと思ってたんです。」
「私もう取れたよー。3回やっちゃったよ。」
お目当てのピンクのうさぎのキーホルダーを手ににかっと笑う硝子先輩。
私は財布を取り出した。
ーー…任務のお給料はまだ来週だ。一回で取らなきゃ!
ゴクリと喉を鳴らし、私はUFOキャッチャーに200円を投入した。
「やっば!!!オマエ下手すぎだろ!!!あっははは!!」
「う、うるせいやい。」
ゲラゲラ笑い転げる五条先輩を蹴飛ばしたい。
「ボタン手を離しちゃダメだよ。」
夏油先輩に言われたが、一度手を離すとそこで止まるだなんて知らないから、10センチ以上離れたところで虚しく動くアームに私は泣きそうだ。
「だって、初めてなんですもん…。」
「え?初めてなの?」
夏油先輩に言われ私は頷いた。
「そっか、じゃあ練習。おいで。」
そう言って夏油先輩は200円投入して、私を手招きした。
「まずこっちのボタンを、ストップって言うまで押して。」
私がボタンの前に立つと、真後ろに夏油先輩が立った。
ーー…すぐ後ろで夏油先輩の声がする。
「あー、惜しい。でも次で取れるんじゃない?」
そういって、また200円入れて行く夏油先輩に、私は申し訳なくて後ろを振り向いたら、目の前に夏油先輩の顔があって、私は顔が熱くなるのがわかった。
「ほら、前見て。」
「あ、はいっ!」
ボタンの上から重ねられた手に、私は全身が固まってしまった。
本当に大きな手で、私の手なんてすっぽり見えなくなるくらいだ。
ーー…わっ…わっ…!
「よしっ。ほら、取れたよ。」
離された手が、熱いーー…
「凄い…本当に取れた!」
私はくまを手にして、夏油先輩に見せた。
「よかったね。」