第4章 私の恋 高専夏油
「わかるところまで自分で着てみろ。直してやるから。」
私は着たこともない浴衣をなんとなく着てみたけれど、裾は地面についたままだし、胸元はだるんとしてる。
帯なんてまったくわからない。
「先輩。絶望しそうです。」
後ろを向いてくれてた五条先輩が、私の方を振り返り口を開けた。
「マジかよ。ガチで言ってる?」
「…すいません。」
「はぁ。ほら、手を伸ばして地衿(じえり)のはし摘んで。」
「…は?え?どこ?」
私は見えてもいいタンクトップとショートパンツを一度着て、五条先輩に着付けを教えてもらうことにした。
「そう。上前少しあげるの。んで、そこ手で押さえてて。」
う、うわまえ?
何を言ってるのかわからないけれど、言われた通り私は崩れないよう手で押さえた。
「紐結ぶから動くなよ。」
「は、はいっ。」
押さえていたところをぐっと細い紐で結んでいく五条先輩は真剣で、少し屈んでいるからふわふわの髪の毛がいつもより近くに感じた。
「これ、地毛ですか?」
「髪?そうだよ。おい、触んな!」
つい目の前にあるから、私は指先でふわっと触れてみた。
本当に見た目通りふわふわだった。
「辞めろバカ。ほら次帯!早くしないと傑くるぞ!」
「えっ!?」
「悟ー?部屋いるのかー?」
「…っ!?」
私たちは目を見合わせた。
部屋のドアのすぐ向こうに夏油先輩がきている。
帯を手に私の腰に手を回して着付けをしてくれている状況はあまり見られたくない。
そして、五条先輩は口元に指を持っていき、しーーっとしたので、私も手のひらで口を押さえた。
「おう、傑。いるいる。今準備してっから、後ですぐいく。先行っててー。」
「…あぁ。わかった。もうすぐ約束の時間だから遅れないようにね。」
「大丈夫遅れない。」
私は手のひらで呼吸も止めていたが、心臓だけは激しく動いていた。
なにか悪いことをしてるようなそんな感じがして、夏油先輩の足音が離れていくのをただただ黙って待っていた。