第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
ネロがハッとした顔で父親を見上げる。
「悪魔は俺たちの事情を考慮などしない。偶然穴が開けば飛び出し、付近を襲う」
フォルトゥナはスパーダ本人が封じに来て統治するほど、魔界の穴が開きやすい地相だ。それはビアンカが誰よりも一番よく知っている。バージルが戻ってこなければ、ビアンカもネロももう死んでいた。それだけの回数、バージルは悪魔を討伐してくれているのだから。
「なら俺にできるのは、そのいつ来るかわからない瞬間に間に合うよう、速やかにネロを鍛え上げることだ」
ビアンカは何も言い返せず、口をつぐむしかなかった。
バージルはネロを見下ろし名前を呼ぶ。
「……ネロ」
「……なに」
バージルは、ゆっくりと口を開いた。
「"守る" ために力を求めるのならば、その強さは"奪われぬもの" でなければならない」
「半端な力では、何も変わらん」
「分かってる……」
「ならば、次は立ち上がれるようになれ」
バージルは それだけ言い、背を向ける。
ネロは、悔しそうに 拳を握りしめた。
ビアンカは ネロの肩にそっと手を置く。
「無理しないのよ」
「……うん」
ネロは 目を伏せる。
バージルは、歩きながら 自分の手を握る。
——この子が求めるものは、かつての自分と似て非なるものだ。
けれど、彼の可能性を 否定する気はない。
(……いずれ、本当に"俺と戦える" ほどの力を持つ日が来るのだろうな)
その時、何を思うのか。
それは まだ、分からない。