第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
フォルトゥナの夜は、普段なら静かで穏やかだった。
しかし、その夜は違った。
近所にいたビアンカ達が気付かないはずもない、尋常でない叫び声、笑い声、嫌でも飛び起きたビアンカは、怯えるネロをベッドから出ないように言い聞かせつつネグリジェにガウンを羽織って様子を見に外に出た。そして、何が起こっているかを知った。
──キリエたちの家が、悪魔に襲われたのだ。
絶望の叫びが響く中、ビアンカは家の中に取って返し、異変に気付いているものの動かずにいたバージルに叫ぶ。
「ネロの大切な友達の家だよ、お願いだから助けてあげて」
バージルは黙って立ち上がり、閻魔刀を片手に家を出て行った。そこから事態の収束に、5分もかからなかったと思う。けれど、
ビアンカがたどり着いたその家では、キリエの両親が、血を流し倒れていた。
クレドが必死に両親を支えながら、震える声で呼びかける。
「父さん! 母さん!! しっかりしてください……!」
キリエだけは無傷だった。
悪魔が彼女には一切手を触れなかったのは、奇跡だった。
しかし、幼い少女にとっては──何もできずに見ているしかなかったことが、何よりも残酷だった。
キリエは目を見開いたまま腰を抜かし、部屋の隅で震えていたという。
彼女の両親は、助からなかった。
そしてキリエも、変わってしまった。
それまでの明るさが失われ、彼女は静かになった。
食事の時も、友達といる時も、どこかぼんやりしていることが増えた。
悪魔がすべてを壊す、その恐怖が、彼女の心に影を落としていた。
そして、それを一番近くで見ていたネロは、決意する。
──「強くなりたい」