第1章 再会
バージルは、ゆっくりと振り返る。
ビアンカの瞳が、彼を真っ直ぐに見据えていた。
ネロと呼ばれた子供は、母の腕の中で小さく息をしている。
静かな、夜の静寂。
バージルは、足元に転がる悪魔の死骸に目を落とす。
──これは、何の意味があったのか?
そこに何の価値もなかったなら、そもそも剣を振るう必要はなかった。
ならば俺は、何のためにこの剣を振るった?
「…………」
バージルは、ゆっくりと考えを巡らせる。
ビアンカが言ったように、選ぶのは俺だ。
俺の意志で、どうするかを決める。
今までは、力を求めることだけが目的だった。
だが──
「……くだらん」
そう呟く。
「くだらんが……」
バージルは閻魔刀の柄に触れる。
剣を持つ者は、振るうべき場所を選べる。
それが、俺の選択だ。
「……ここに、しばらく留まる」
それが、バージルの出した答えだった。
ビアンカは、息をのんだ。
「……ほんとに?」
「選んだだけだ」
そう言いながら、バージルは壁にもたれかかるように腕を組んだ。
「一時的なものだ。勘違いするな」
それでも、ビアンカは少しだけ微笑む。
「……ありがと」
バージルは何も答えず、ただ静かに目を閉じた。
こうして、彼はその家に留まることを選んだ。
それがどんな未来へ繋がるのか、その時のバージルはまだ知らなかった。