第6章 貴方は何が好き？

　翌朝、ビアンカは少し早めに起き、静かなキッチンで新しい茶葉を取り出した。
　今日試すのは、イングリッシュブレックファースト。
　ミルクティーにすると美味しいこの茶葉は、ストレートでもしっかりとしたコクと力強い味わいを楽しめる。

　（バージルはミルクや砂糖を好まないから、純粋に茶葉の風味だけで勝負ね）

　じっくりと蒸らした後、カップに注ぐ。
　深い赤褐色の液体が湯気とともに立ち昇る。

　（さて、今日はどんな反応を見せるかな？）

　期待と不安を抱えながら、ビアンカはリビングへと向かった。

　バージルは、いつものように朝の読書をしている。
　静かにカップをテーブルに置くと、彼はちらりと視線を向け、無言のまま本へと戻った。
　ビアンカは軽く肩をすくめ、何も言わずに自分の席に座る。

　しばらくして、バージルがカップを手に取った。
　ゆっくりと口をつけ、ひと口、含む。
　──そして、すぐにもう一口飲んだ。

　（……お？）

　アッサムの時は、ほとんど手をつけずに放置され、
　ダージリンの時は、最小限の量だけ飲んでいた。

　しかし、今日は明らかに違う。
　バージルは二口目を飲んだ後、しばらくカップを見つめ、再び口をつけた。

　（これは……当たり、か？）

　しかし、ビアンカは慎重だった。
　まだ油断はできない。
　カップを置いたバージルを観察しながら、少し探るように言ってみる。

　「どう？　いつもよりしっかりした味だと思うけど」

　バージルは本をめくる手を止め、ゆっくりとこちらを見た。
　その視線には、若干の警戒が混じっている。

　「……お前は何がしたい」

　ビアンカはにっこり笑った。

　「アンタの好みを知りたいだけだよ」

　バージルは無言のまま、本へと視線を戻した。
　しかし、カップはまだ手元にあり、時折口をつけている。

　（完全な正解じゃないかもしれないけど……これはかなり近いはず）

　ついガッツポーズをしそうになるのを堪えながら、ビアンカは頷いた。
　バージルが好むのは、どうやら軽やかな紅茶ではなく、コクのあるしっかりとした味わいのものらしい。
　（ふふ、次はもう少し深みのある紅茶を試してみようかな）

　ビアンカは、次の作戦を頭の中で練りつつ、朝の紅茶をひと口飲んだ。