第6章 貴方は何が好き？

　バージルの嗜好を探るべく、ビアンカはまず手始めにアッサムティーを試すことにした。
　アッサムは紅茶の中でも特にコクがあり、しっかりとした味わいが特徴だ。一般的にはミルクティー向きとされるが、ストレートでも十分楽しめるはず……と思いながら、彼女は茶葉を掬い取り、ポットに移した。

　彼は何も知らずに、いつものように読書をしている。古書店を営んでいてよかったのは、常に入れ替わる在庫で彼を退屈させないところだろうか。このペースを保つためには経営の方も手を抜けないのが悩みの種だが。

（さて、どう出るかな……）

　期待と不安が入り混じる中、ビアンカはカップに紅茶を注ぎ、バージルの前にそっと置いた。

　「……」

　バージルは何も言わずに本から視線を上げ、出された紅茶にちらりと目を向ける。
　ビアンカは極力自然に振る舞いながら、自分の分の紅茶を手に取るふりをして、彼の様子をじっくり観察した。バージルは無言のままカップを手に取り、一口、口をつける。

　──その瞬間、わずかに眉が動いた。

（あっ……）

　ビアンカは内心で失敗を直感した。
　今までの経験から、バージルは好まないものを口にした時にほんのわずかだが反応を示す。それがどれほど小さな動きであろうと、ビアンカにはなんとなくわかる。
　そして、アッサムティーを口に含んだ彼の反応は、明らかに「好みではない」側に分類されるものだった。
　バージルはカップを置き、何も言わずに再び本へと視線を戻した。

　言葉で拒否こそしないが、再び口をつけることなく放置されるカップがすべてを物語っている。

　ビアンカはため息をつきそうになるのをこらえ、何食わぬ顔で自分の紅茶を飲んだ。

　「……今日はアッサムにしてみたんだけど、どう？」

　何気ない会話の流れを装って尋ねてみるが、バージルは本から目を離さず、無表情のまま静かに答えた。

　「問題はない」

　（いやいや、めちゃくちゃ悪そうな顔してたけど！？）

　心の中でツッコミながら、ビアンカは慎重に次の手を考える。

（やっぱりコクのあるタイプはダメなのか？ それとも渋みが気になる？ うーん、もしかすると、香りの強いもののほうが……）

　ビアンカは気を取り直し、翌日、新たな茶葉を試すことを決めたのだった。