第6章 貴方は何が好き?
ビアンカは、少しずつ、少しずつ探るようにしてバージルのことを知ろうとしていた。
ある日は、食事。
「アンタ、好きな食べ物ってあるの?」
「何でも構わん」
「何でもって……嫌いなものは?」
「特にない」
(選ばないんだな……)
結局、彼が何かしら感想を言うまで試行錯誤を繰り返し、ようやく「肉料理の方が箸が進む」ことを発見した。
またある日は、読書。
バージルが持ち込んだわけではない、古書店スパーダの蔵書のいくつかを手に取っていた。
「読書が趣味なの?」
「知識を蓄えるのに時間を費やすのは当然だ」
興味を示すのは、主に歴史書や研究書。まるで何かを探し続けているかのようだった。
別の日。
バージルが無言で紅茶を淹れていた。
「……」
「……」
以前、コーヒー派か紅茶派かと聞いたとき、どちらでもいいと言っていた。だが今、彼は自分で紅茶を選んだ。
「ミルク入れる?」
「不要だ」
ふと気づく。
「前にコーヒー飲んだ時もブラックだったね」
「ああ」
(どうやら、甘いものは好まないらしい)
これは重要な情報かもしれない。
さらにある日は、天候の話。
「雨の日は嫌い?」
「嫌いではない」
「じゃあ、好き?」
「特に何も感じない」
(どっちだよ……!)
しかし、その後ふと外を見ている彼の視線が、雨音を聞いてわずかに遠くを見ていることに気づく。
もしかして、過去を思い出しているのだろうか?
またある日。
バージルがふと、ネロを抱き上げようとしたことがあった。
「……」
しかし、慣れない動作に少し躊躇したのか、ネロが不思議そうに彼の顔を見上げていた。
(おお、これは貴重な光景……)
バージルが自分から子供に触れようとすることなんて、滅多にない。
「そういう時は、首を支えてあげるといいよ」
ビアンカがアドバイスすると、ほんの一瞬だけ、バージルが彼女を睨んだ。
「……知っている」
(いや、絶対知らなかったでしょ)
でも、ネロを抱く腕は次第に安定していった。
少しずつ、少しずつ。
ビアンカは、彼の好みも、癖も、そして少しずつ変化していく姿も、観察し続けることにした。