第5章 ふとした日常
朝の光が窓から差し込み、ビアンカは眠たげに目をこすりながらキッチンへ向かった。
ふわぁ、と欠伸をしながら流しへ向かい──そして、目を見開く。
「……あれ?」
昨夜、バージルのために用意しておいた食事の皿が、すべて綺麗に洗われ、伏せられていた。
確かに彼が帰る前に寝てしまったのだから、後片付けはできていないはずだ。
「……まさかね」
つい独り言が漏れる。
あの男が? わざわざ? こんなことを?
「いやいや、ないないない……」
首を振る。自分で自分を納得させるように。
しかし、どれだけ考えても他に片付けた人物はいない。
バージルが、食器を洗った? 本当に?
──いや、もしかしたらただの気まぐれかもしれない。
だが、それでも。
「……ふふ」
ビアンカは思わず口元を緩めた。
「素直じゃないんだから」
わずかに弾んだ声を落としながら、そっと伏せられた皿の一枚を撫でた。
彼が何を考えているのかなんて、いまだによくわからない。
でも、確かに彼の痕跡がここにある。
──知らぬ間に、この家に足跡を残し始めていることに、バージル自身は気づいているのだろうか?