第3章 命は続く
ビアンカは、力尽きたように眠っていた。
連日のネロの夜泣きに完全にノックアウトされていた。
疲労の色濃い顔。
かすかに乱れた髪。
寝息すら深く、微動だにしない。
バージルは、彼女を見下ろしながら無言で立ち尽くしていた。
腕の中では、小さな赤子──ネロが静かに眠っている。
ふくふくとした頬、銀色の産毛。
小さな指が、彼の服を無意識に握っている。
──バージルは、平常心ではいられなかった。
内心、驚愕の嵐だった。
まさか、あのたった一度の過ちで。
まさか、自分の血を引く子供が、本当に生まれているとは。
それも、生まれてからすでに数ヶ月が経っている。
そんな事実に、彼は未だに追いつけていなかった。
「……」
思いもしなかった。
自分が父親になっているなんて。
自分の血が、この世に残っているなんて。
バージルは、再びネロを見下ろす。
この小さな存在が、紛れもなく自分の息子なのだと、頭では理解している。
だが、心がまだ追いつかない。
「……」
腕の中で、ネロがかすかに動く。
安心しきった顔で、彼の腕に身を委ねている。
まるで、最初からこうすることが当たり前だったかのように。
バージルは、小さく息を吐いた。
もう後戻りはできない。
ならば──
「……少し、考えなくてはな」
呟く声は、いつになく低かった。
彼の人生に、想定外の未来が訪れた。
それが、この腕の中で眠る小さな命だった。