第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
フォルトゥナの城門前。
キリエとネロ、そして数人の騎士団員たちが、準備を整えていた。
馬車に積まれた荷物、護衛のための装備、長旅に備えた食糧や薬草。
そのどれもが、「本格的な遠征」 という雰囲気を醸し出していた。
「……さて、出発の時間だな」
ネロは腕を組み、どこか不満げにため息をついた。
「ったく……なんやかんやあったけど、結局俺が護衛に選ばれたわけだ」
「そりゃそうでしょ」
ビアンカが 苦笑しながら肩をすくめる。
「最初から"ネロしかいない" って分かってたのに、妙な大会開いたせいで余計な手間が増えただけじゃない?」
「……だよな!? 俺、言ったよな!?」
ネロは憤りながら髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「最初から指名しろよ!!」
「公平性を重視した」
静かにそう言い放つ声。
ネロは ギクリと動きを止め、ゆっくりと振り向く。
そこには堂々と腕を組んだクレドの姿があった。
「お前、まだその理屈通す気かよ……」
「当然だ」
クレドは真顔のまま続ける。
「剣術大会を経て、お前の実力が明確に示された。誰も異論を唱えられない"正当な結果" だ」
「いや、異論を唱えられないくらいボコボコにしただけだろ」
「それが結果だ」
「ちくしょう、話になんねぇ!」
ネロは怒りながらも、もはやこれ以上言っても無駄だと悟る。
キリエはくすくすと笑いながら彼の腕を軽く叩いた。
「もういいじゃない、ネロ。あなたが一緒に来てくれるのは心強いわ」
「……まあ、それはな」
ネロは頭をかきながら、少し気恥ずかしそうに目を逸らす。
その様子を見ながら、バージルは 無言のまま彼らを見下ろしていた。
「……」
息子の姿を見ながら、彼は ほんの僅かに目を細めた。
(……成長したな)
そう、思わなくもない。
それでも、まだ "未熟" だと感じている。
「アンタ、ネロが旅に出るの、ちょっと寂しかったりする?」
隣から、ビアンカが小さく囁いた。
バージルは答えない。
ただ、少しだけ 息を吐いた。
「俺の知ったことではない」
「ふーん?」
ビアンカはニヤリと笑う。
「でも、ネロが出発するまでずっと見てるんだ?」
「……」
バージルは、何も言わなかった。