第7章 告白を受けて
「……は」
バージルの口から零れたのは、まったく意味をなさない吐息だった。20年越しの告白は、彼に驚愕だけを齎したらしい。
「貴様が、オレを? 死にかけの嘘吐き女が、こんな時まで戯言をほざくとは」
苛立ちとも嘲笑ともつかぬ言葉を吐き捨ててバージルは死にかけている彼女に背を向けた。
「聞いてられん。オレは先に行く」
「は? どこにだよ」
「古書店だ、微弱だが悪魔の気配がした」
「オレはこっちを確認してから行くよ」
「……好きにしろ」
『どこまでも自分勝手で、ワガママで、図太くで、でも素直になることの出来ない男』
彼の歩みに合わせるように、そしてどこか歌いからかうように、ビアンカは笑った。それはまるで、彼の感情に合わせたかのようだった。バージルの足が一瞬止まることにネロは気づいたが、彼を呼び止めることはせずにいる。男は数秒ほど、そちらに半分顔を向けたままでいたがやがて振り切るように去って行った。
「……アンタがオレの母親だと言われてはいそうですかって受け止めることは出来ねぇけどさ」
独り言にしかならないとわかっていても、ネロはビアンカにそう声をかける。とうに彼岸に居るだろう彼女に話しかける機会など、もう二度とないとわかっていたから。
「アンタがオレを産んでくれて、命懸けで守ってくれたおかげでおじさんやおばさんとクレド、何よりキリエやダンテに出会えた。それだけは、感謝してるよ」