第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
プレイに関して物申すこと自体は、バスケットが団体競技であるが故に、普段からよくあることだった。
「仕方ねぇーだろ?」
試合中にらしくもなく、声を大にして不満をぶつけてきた詩織を説得しだしたのは。
私でもキャプテンでもなく。
「絶対ねぇーけど、万一にも
ウチと天がへまして抜かれでもしたら
守備要員いなくなっちまうじゃねぇーか」
まさかの紗恵だった。
しかも言い分が割と的確。
こんなこともあるんだな?
「ま、絶対ねぇーけどさ」
「そんなに自信があるなら
端から保険なんてかけないでよー!!」
『詩織!これはどうしようもないから
我慢してくれ』
半ば適当な紗恵を援護するように、立て続けに私が口を開くと…
詩織は「むぅ~…」と口を尖らせて黙ってしまった。
あの反応なら…まぁ…
四捨五入して「OK」ってことで、受け取って大丈夫だろう。
『やるってよ』
「よし。ゴール下は(詩織で)大丈夫。
ボール運びは紗恵と天が何とかしろ」
「もちよ」
『任せろ』
キャプテンがドリブルしていない方の手で、コート中を指さしつつ出してくる指示を聞きながら、私は実際の動きをイメージしていた。
自称“エースの思考を完コピできる”紗恵も。
たぶん私と同じイメージを頭で繰り広げているんだろう。
“自分視点で”…な?
「だからその後は…」
この後、私たちが実行しようとしている作戦は。
“ゴール下でのパワー勝負”がものを言っていた、さっきまでの作戦とは全く違う。
今までとは、全く違うテクニック…
ゴールまでの距離が、グンッ!と大きくなったことに対応できる、精密な空間把握能力を鍛えてきた専門家の力が必要だ。
つまり…
『ほら、おまえの出番だぞ』
外からの攻撃。
『元祖馬鹿』
それはSG(シューティングガード)の仕事だ。