第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
直前、タイムアウトを取ったのは、この作戦を選手間で共有するためだったのだろう。
この場面でこの作戦を選んできたってことは…
点を“取る”より“取られない”方を選んだ…って言うことなのか?
本意かは分からないけれど、残り5分を過ぎたら無理もないか。
これなら私たちは、さっきみたいなしつこいディフェンスに苦しめられる心配はない。
だけど、長所と短所は紙一重。
ゾーンを組まれると、安心して攻められなくなってしまう。
毒蛇の巣の中に足を入れるようなもんだ。
下手すりゃすぐにボールを奪われる。
自ら餌食になりに行く感覚に近いかもな?
『…ん?』
…その、何となく思った“自ら餌食に”という自分の言葉に反応した。
それから、もう1つの方にも…
『ボールを…“奪われ”』
その後私が考えたことは、
“奪われ”て…
“奪ってもらう”…
“奪ってもらって”…
という、一見同じようで、意味の違う言葉の羅列だった。