第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
?「気ぃ抜くな!足動かせ!!」
?「1本取り返そう!!」
第4クォーター、試合は残り8分。
相手チームの攻撃だ。
すかさず私もディフェンスにまわる。
チャンスが舞い込めばいつでも取りに行く。
監督が言ってたけれど、確かにこの時間内に逆転は到底無理だ。
私たちの勝ちは、決まったも同然…
でもそれは、あくまでもこっちの言い分だ。
その証拠に、“負けている”というこの戦況に屈する様子もなく。
相手チームはしっかりと争ってくる。
相手だって真剣に戦っている。
素直に負けて、勝ちを譲る気なんて。
そんなもの持ち合わせて、全国に来るはずがない。
試合はまだ、終わっていない。
勿論勝つ気だ、あちらさんも。
勝つための戦略を、インターバル中に練ってきたはずだ。
現にメンバーチェンジもしてる。
選手をうまく使うことで、なんとか勝機を掴もうとしてるんだ。
それに対して、半ば監督の気まぐれで、結果フルで出ることになった私たち2年生。
確実に疲労は感じてた。
前半バリの動きは、既に出来ていなかった。
最終クォーターで意識が散漫になる、ってのも…
あり得なくはない。
いつそうなってもおかしくない状況だ。
万一にも、そこに漬け込まれでもしたら…
それはそれで、骨が折れる事態になりそうだ。
だけど、私たちも“強い意志”ってのは、それなりに持ち合わせている。
“覚悟”ってもんがな。
全国出場が決まったその時から。
“楽に勝たせてもらえる”なんて、微塵も思ってねぇーよ。
よくて“土壇場でやっと勝てる”ってのが、この大会での私たちの“あるある”になると思っていた。
“土壇場での大勝負”ってのが、全国の醍醐味みたいなもんだろ?
だから手は抜かない。
抜いて勝てるなんて、さらさら思ってない。
それによ、こっちは「勝ちは決まったも同然」って、監督から言われて出てきてんだよ。
そこまで言われといてよ。
“調整”って選択肢を引っ込めてまで、先輩じゃなくて私たちを選んでくれたのに。
それで結果負けて戻るなんて…
そんなの、監督に合わせる顔がねぇーんだわ。
絶対に負けない。
「お前たちで勝ってこい」って言われたら、意地でも私たちが勝つ。
だから、攻められる前にこっちが攻める。