第5章 栄光の目前 　〜決勝トーナメント準決勝〜

●藤堂 天●　〜東京体育館〜


意識を散らすな。
集中しろ…


感覚を尖らせろ。


いつもの何倍も、何十倍も。


五感を…六感までをも…
細部まで研ぎ澄ませる、この瞬間。


その息遣い…仲間のものも、敵のものも。
何もかもを近くに感じる。


どういう仕組みなのかは分からない。
けれど…


この緊張状態の中で、私は。
私たちは。


もっと強くなる。


そう思った瞬間…
見えた。


舞い込んだチャンスが。
ボールを捌きながら、こちらに攻め込んでくる相手選手たちの狭間に。


“予想”が一度、“確信”へと変われば。
迷う余地など、その時の私には疾うに残っていない。


『ふっ！』

？「な…？！」


ボールの軌道を見切った瞬間。
ディフェンスから一転、私は相手選手2人の間に飛び込んだ。


2人の間で行われるはずだった、仲間間でのパス回し。
そこに割り込むこととなった私は、当然、招かれるような存在ではなく。


ボールを奪うために手を伸ばすも。
それに宿されていた対戦相手のパワーに、掌がジンッ…！と痛くなる。


これは、所謂“パスカット”というプレイ。
多少なり痛い思いはしたが、その程度ならいくらでも飛び込んでみせよう。


スティールの成功を収めたことで。
相手選手間で真っ直ぐに出されたボールは、今は私の手の中に。


つまり。


攻撃は一気に、こちらに切り替わった。


第4クォーター、残り7分41秒。