第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 ??● 〜東京体育館〜
タオルにはまだ、乾いた部分が残っていた。
その事実を持った上で、得点板でインターバルの残り時間を確認した。
「まだいける」と反射的に判断した私は、手早く頭部に装着していたヘッドバンドを外した。
髪の生え際で止まっていた、白い色をしたそれを手に取った時。
締め付けがなくなった開放感のすぐ後に、自分の汗で濡れた長い前髪が、束になって頬に張り付いた。
唐突に、途轍もない不快感に襲われた。
その時、頬に当たって小さくペチッ!っと音を立てていたのが、確実に不快度を上げていたと思う。
だからすぐに、タオルで頭をワシャワシャッ!っと拭いた。
風呂上がりのそれと同じように。
動かしているのが、タオルを持った手の方か。
はたまた頭の方なのか、分からなくなるほどに。
これが普通の水道水ならどれだけよかったか。
でもこれは水じゃない。
汗だ。
だから必死になって拭いた。
『はぁ…』
その経過で髪の乾きを自覚すると、私の口から無意識に溜息が溢れていた。
不快感が去ったことに対する、安堵のようなものが溢れてしまったのだろう。
これで髪や顔に付いていた汗は、大半がタオルに吸収された。
その証拠に、髪はもう顔に張り付かなかった。
だからヘッドバンドを付け直そう…としたんだけれど。