第3章 表があれば裏がある
●藤堂 天 ● 〜東京体育館〜
もしくは、利き手じゃない方で開封するという若干リスキーなことをしてしまったからか。
『あ。』
自分の指先が、キャップに触れていないことはすぐに気がついた。
それが地面に向かって自由落下している真っ最中だということも。
次に既視感のあるその形状を目で捕らえたときには、もう既に地面に到達した後だった。
それだけでは終わらず、数回のバウンドを繰り返して数メートル前方に転がった。
教室で消しゴムを落とした時に似てる。
座ったまま拾い上げられる範囲外に転がっていってしまった時の、あの感覚。
どうってことないけどすごく厄介。
3秒ルールという選択肢はもうなかった。
あれはもうキャップじゃない。ゴミだ。
自分が出してしまったゴミを放置しておくこともできず、回収するために数メートル先で停止したキャップの元に歩き出した。
右手にあった本体のほうは、既に口に運ばれていた。
こうでもしないと、何かのはずみで今度は中身が溢れ出ることになるかもしれないから。
本来であれば、それはキャップの役割なのだろうけど。
地面に落ちたキャップにそれを担えるほど、私は野生児ではない。
キャップを拾い上げながら、「まぁ、どうせ飲み切るし。気にしなくていいか」と前向きに考えて、吸い口からゼリーを吸い上げ続けた。
左手で回収したキャップをジャージのポケットに入れるのと同時に、地面に落とした視線を元に戻した。
その時…
突然目の前を、美しい少女が横切っていった。