第3章 表があれば裏がある
●藤堂 天 ● 〜東京体育館〜
「天。お前まだ食うのかよ?」という言葉を背に受けながら、バッグのチャックを開け、荷物の間から顔を覗かせるビニール袋の持ち手を引き抜いた。
『そういうお前こそ、
さっきからなに飲んでんだよ?』
引き抜いたビニール袋のそこそこの重量感を感じながらそう聞くと、「1/2日分の野菜」と言う声が返ってきた。
それに対して「腹壊すなよ?」と返したら、「牛乳入ってねぇし大丈夫だ」と言われた。
何故か少し誇らしげに。
「冷たい飲み物で腹壊すなよ」と言ったつもりだったのだが、違う答えが返ってきたから、それ以上聞くのはやめた。
左手にゼリー飲料の形状を捕らえた後は、それだけを取り出して後に残ったビニール袋を右腕にぶら下げた。
ゼリー飲料を右手に持ち替えて、左手で蓋に力を込めれば。
プチッ!という音と共に、未開封だった容器の蓋が反時計回りで回り始める。
螺旋構造の蓋が完全に容器から離れれば、あとは容器を口に運ぶだけだ。
…と思ったのだが。
もしかしたら、早く腹に何かを収めようと、無意識に自身を急かしていたのかもしれない。
それがきっかけになったのかは分からないが、本体と蓋を分離させて、本体の口を咥えるその間に。
私の左手から、キャップが逃げ出した。