第6章 即ちそれ、“強豪”なる者たち
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
「急に止まんなよ?!」
そう言いながら、史奈が愛華に詰め寄った。
まだ額が痛いのか、手を充てがっている。
史奈が言った「急に止まんなよ」は、正しいんだと思う。
事の経緯はこうだ。
まず愛華が進行方向に何かを見つけた。
それを見た愛華は、咄嗟に「止まれ!!」と言ったんだと思う。
直前のことで、全員の意識は愛華に向いていた。
とは言え、視線までは向いてなかった。
それが逆にいけなかった。
意識は向いていても、私たち4人は愛華を見ていない。
まず詩織の視線は、更衣室を出た時からずっとケータイに奪われている。
そして紗恵はユラユラしてるとき、目を細めていたみたいだから純粋に見えてなかったと思う。
史奈に関しては真逆(私の方)を見てるから視線を送ることもできない。
そして私は…
単に史奈の方がデカすぎて、真ん前が見えない。
愛華は意図せずに、そんな最悪のタイミングが揃った時に「止まれ!!」と言ってしまったんだ。
あくまでも、“全員の視線が自分に向いている”と、勘違いしてしまったためだ。
しかも愛華は、どうしてもすぐに私たちを止めたかったんだろうな?
その証拠が、あの大きく広げた両腕だ。
愛華の視認した“何か”に気づくこともなく、ただ「止まれ!!」と言われただけの私たちは…
なし崩し的に、事故ってしまったんだ。