第6章 即ちそれ、“強豪”なる者たち
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
「おい天!
お前マネに“弁当早く持ってこい”って
脅したんじゃねぇーよな?!」
直前まで、私の真ん前を歩いていたそいつは。
そう言いながら私の方に勢いよく振り返ったかと思うと、器用にもバック歩行しているんだ。
『脅すってなんだよ馬鹿!』
脅すどころか、むしろ真反対の感情を抱き、それを伝えようとしていたというのに。
視線を上げた先には、そんな気も知らない馬鹿…史奈がいた。
・・
いつもなら、私物のジップパーカーの白いフードが、そいつのジャージの襟から顔を出しているのが見えるはずなのだが。
今回に限っては、史奈(本体)の顔がこちらに向けられ、その2つの目が私を鋭く睨んでいたんだ。
そして、
「言いそ~!天いつか言いそ~!!」
後ろ向きに歩きながらも、不思議と先頭を行く愛華に着いていけている史奈に、私が何かを言い返すより先に。
人一倍響く、その声の方が少しだけ早かった。
「アハハッ!」と高らかに笑うその声は、私の斜め前…
詩織の前を歩き、愛華の背中を追うように歩く。
紗恵の声だった。
これは“エース信者”であることは関係していないと思うが。
私がヘッドバンドをぶら下げているを模すように、紗恵の首には愛用のヘッドフォンがぶら下がっている。
本来、ジャージ姿にマッチするとはお世辞にも言えないであろうそれも、見慣れてしまえばマッチもアンマッチもない。
『お前ら私をなんだと思ってんだ!
マネを蔑ろにするほど
人間性欠いてねぇーよ…!!』
「もうね!言われたら多分…即よ?!
即納得しちゃう!!」
そう言いながら、私に振り返った紗恵の顔は…
何か可笑しなものを見つけたかのように。
「面白くて仕方ない!」って、目を輝かせて。
新しいおもちゃを見つけた子どものような…
けれど、その何倍も“悪知恵”ってものを熟知した、変に大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
幼い顔に時折チラつく大人の雰囲気に、こっちは脳が麻痺しそうだってのに。
そんなことも構わず、紗恵は続けたんだ。