第6章 即ちそれ、“強豪”なる者たち
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
更衣室を出た私たちは、ロビーで休憩を取るために会場の廊下を歩き始めた。
その時、肩にかけたバッグが少しだけ軽く感じたのは。
準決を経たことで、物理的な意味で本当に中身が少なくなったからなのだろう。
『なぁ~昼飯なんだって?』
「もう飯のことしか頭にねぇーのかよ…」
その道中、第3クォーターの終了時からずーっと抱えていた“空腹感”を露わにした私の言葉に。
史奈を挟んで私の前を歩く愛華が、小さく野次を飛ばしてくることが分かった。
すると、
「さっきマネージャーが
“注文したお弁当取りに行ってきます”
って言いながら走って行ったよ?」
「昼飯はなんだろう」という私のシンプルな疑問に、真っ当な回答を提示してくれたのは。
私の隣を歩く詩織だった。
生まれて以来、ずっと裸眼の私にコンタクトレンズの都合とか事情とかはよく分からない。
だけど、詩織が通常時の眼鏡姿に変わっていただけで、今が“戦闘モード”ではないということが私には理解できた。
「何を走らなくても…」
「それに…ほら!
同じ内容で全員にメール飛んでるよ?」
そう言うと詩織は、ご丁寧にケータイを取り出し、直前に言った“メール”画面をこちらに見せてきた。
流石、私たち5人の中で、真っ先にケータイを手に入れただけはある。
随分と使い慣れたもんだな。
歩行は継続しつつも、詩織の声に釣られるがままに顔を横に向けると。
そこには確かに、「ダッシュで取りに行きます!」という文字が、ケータイの画面内に連なっていた。
オマケ感覚で、人が走っているような絵文字も添えられて。
そして、詩織の回答の一部に、“不満”とも“疑問”ともとれるコメントを返したのは、またしても愛華だった。
愛華は今、「何を走らなくても」と言ったのと同じトーンで、「私に分かるわけねぇーだろ、お前にケータイ取り上げられてんだから」と、詩織に背を向けたまま話している。
そして、「何を走らなくても」と思ったのは…
私も同じだった。