第6章 即ちそれ、“強豪”なる者たち
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
『なぁ~昼飯なんだって?』
「もう飯のことしか頭にねぇーのかよ…」
試合時の汗を大量に吸い込んだことで、その接戦の激しさを物語るかのような変貌を遂げたユニフォームを脱ぎ。
私たちはジャージに身を包んだ。
私はそれに加えて、試合前の姿が見る影もなくなったヘッドバンドを外し、覚えのないその重量感から解き放たれた。
久々に、“自分の頭部の本来の重さ”を思い出し、その軽さに驚いたりもした。
ユニフォームを脱いだ時の開放感は計り知れず…
制汗シートで身体を一掃すると、謂れもない爽快感で。
私はほんの一瞬、“至福”というものを味わった。
その後は、ジャージの素材独特の滑らかさに包まれ。
ひんやりとしたその手触りに、ユニフォームを身に纏った時とは真逆の感情が生まれたんだ。
しばし人肌を離れていたその素材に、私は全身の熱を奪われ始めるが、嫌だとも思わないし気にもならない。
単に、今が夏だからなのかもしれない。
しかし、試合直後の私にとってむしろその素材の特性が、私の上昇し過ぎた体温を心地よく下げていき気持ちがいい。
他の奴らが、同じタイミングで何を思っていたのかは知らない。
けれどこれは、各々がその“解放の儀”を経て、更衣室を出た後の会話。
その直前…
全員が更衣室へと背を向け、1つしかないドアをくぐって廊下に出ようとする一方。
私は、バッグの中に入れておいた、もう一つのヘッドバンドを取り出し。
手早く頭から通して、首にぶら下げた。