第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
だから、さっき紗恵に聞かれたこと。
「もしかして
少しワクワクしちゃってる感じ?」
一度、「認めてしまえ」とまで思った。
しかし、正直なところ、その時の私はワクワクしていたわけじゃなかった。
どちらかと言えば、もっと穏やかで。
ずっと張りつめていた緊張の糸が、急に解けたような。
試合が終わった後だから、至極当たり前の内情だとは思うのだけれど。
やはり心臓の鼓動は、早まるよりも、落ち着きを取り戻す方を選んでいた。
それを“ワクワク”と表現するにしては。
私の胸の中にある感情は、あまりにも年相応の幼げを持ち合わせていない。
何かを成し遂げた後、ふっ…と冷静さを取り戻すような、そんな感覚だった。
そして、後追いで私の元へやってくる、それとは別のもう一つの感情…
それは所謂、“この先に待つ、新たな挑戦への恐怖”のようなもの。
再びコートに立って戦うことへの、“恐れ”のような気持ち。
バスケをすることは、怖くはない。
例えコート上では、常に危険と隣り合わせなんだとしても。
私はそこに立って、誰よりも長い時間戦ってやる。
・・・
いくら私が、そうだと断言しようとも。
試合が終わると、なぜだか唐突に怖くなる時がある。
その“なぜ”は…
“どうして”そんなことを思ってしまうのかは、今の私にはまだ分からない。
しかし、“何が”私をそう思わせるのかは。
それだけは分かっている。
私の中に、“恐怖”が生まれるのは、それもまた。
仲間を前にするからなのだろう。