第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
仲裁に入ったはずの愛華は、なぜか今、私の身体の前面にピッタリとくっ付いている。
人によっては、「見事にフラグ回収した」と言って、笑い話にすることが出来るのかもしれない。
でも私は、そうはなれない。
「『 いっっってぇ…!! 』」
直前、詩織と史奈が力を加えるままに、軽々と引き寄せられた愛華の勢いは、私が思ったよりもずっと強く。
その衝突の衝撃で、私と愛華は揃って痛みを訴えた。
あと、問題は他にもあって、
『おま…!そこ胸!胸だって!!』
「分かるけどコートで“胸”“胸”言うな!!」
そこそこの身長差を有する私と愛華が、前面から抱き合おうもんなら。
私の胸の位置は、ちょうど愛華の顔面にあたるんだ。
だから今、見下ろした私の視線の先で。
目と鼻の先にある、その明るいペールブルーの髪が、会場の光をこれでもかと反射させて、眩しいほどの光を放っている。
そのことは、私が誰よりも知ることとなった。
「言うほど胸ねぇーくせに…!」
『んだとゴラァ!!』
そんな状況に陥ってからと言うもの。
口を開ければ口論は絶えないし。
互いの腕は、何とか離れようと力が込められる。
しかし、そもそも大多数から抱きしめられている私はハンドリングが効かないし。
何より、私が下手して本気を出してしまったりしたら、周囲の奴ら諸共怪我をさせてしまうかもしれない。
愛華の方は、この状況に陥れた元凶の2本の腕に、背中をガッチリ固められているから逃げようがない。
結論。
事態は絶望的だった。