第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
しかし、その状況に危機感を抱いているのは、またしても私だけのようだ。
と言うのも、同じく危機的状況に置かれているであろう紗恵は。
直前まで「痛い」って言っていたくせに、再び大笑いを始めたんだ。
「相変わらずの単細胞っぷり~!!
でも好きよ?史奈のそういうところ~♪」
「”いってぇー”ってなんのことだ?
この遊びの合図かなんかか??」
「何を言うか!事実顎が痛いんだよ
ウチはさっきから!!」
その会話を聞きながら、私は思った。
そりゃ、危機的状況とは言っても、紗恵は痛いだけで済むさ。
ただし、顔周辺を大事にする紗恵(こいつ)にとっては。
もしかしたら、それだけでも致命的なのかもしれない。
しかしそれでも、私と比べたらまだいい方だろう。
「天(私)が置かれている状況より悲惨」なんて言われようものなら、10年に一度のレベルの“怒り”が湧き上がるかもしれない。
その置かれた状況が、私以上に悲惨であっていいものか。
なぜって、「痛い」だのなんだの言い合ってくれた、しょうもない紗恵と史奈(馬鹿ども)の会話…
一から十まで、全部が私の両耳元でやられているんだ。
『うっせぇーし痛ぇーし重ぇーし
やっぱうっせぇー!!』