第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
そしたら、今度は紗恵の方が、
「だって史奈もギュッ!ってするんだもーん!」
『史奈の片脚お前に行ってんのかよ?!』
と、言ってきた。
要するに、「自分(ウチ)にはどうしようもない」ってことを言いたかったんだろう。
先ほど、下げた視線の中で見えた、史奈の片脚…
それは確かに、私の腰に巻き付いていた。
「だとしたら、もう片方はどこなんだ?」。
…なんて、そんな疑問が浮かぶ以前に、解答を得てしまった。
史奈の、もう一方の脚は。
紗恵の腰に巻き付いているんだろう。
紗恵が「史奈もギュッ!ってする」って言ったのは、まさにそれのことなんだろう。
「ただでさえ詩織に挟まれていたのに。史奈の加入で、更に後ろから押されることになった」と…
そもそも、ガラ空きだった前方と、元々紗恵がいた背後とで。
史奈の脚の行き着く先が変わるのは、至極当たり前のことだったんだ。
結果的に、史奈の脚に挟まれることになった私と紗恵は。
その脚力の強さを証明される代わりに、それぞれ肩と顎にダメージを受けることになってしまった。