第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
『史奈!お前あんまヒートアップすんなよ!』
そう口にしたのと同時に、ボールがセンターラインを越えた。
目線はあくまでボールに集中して。
視界から外れた史奈には、視線の代わりに声をかけた。
「そんなの…分かってるよ!」
そう返してきた、史奈のこの反応は…
「分かってるけど、分かってない」が正しいな。
つまり感情的になっている。
別に史奈だけに言えることじゃないけれど。
フラストレーションが溜まることで、メリットはまず生まれない。
いくら自分の思い通りに動けないからって、それを無理矢理にでも押し切ろうとすれば。
ファウル認定で、結果こちらが不利になるんだ。
今の史奈は、そこにいつ足を踏み込んでもおかしくない。
仮にここで今、ディフェンスファウルでも取ってしまったら…
残り時間内で流れを持ち直すのは、結構骨を折ることになる。
だから…
「落ち着いてこう!焦る必要ない!」
…って、私が言おうとしたんだけどな。