第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
「落ち着いてこう!焦る必要ない!」
その言葉が、自陣を守る私たちの間を駆けていく。
私の代わりにそう呼びかけてきたのは…
と言っても、こういうタイミングでこんなこと言うやつなんて。
1人しかいないけどな。
それは、ここまで指揮を執っていた我らが司令塔。
正式には、PG(ポイントガード)。
キャプテンだ。
「慎重にゲームを進めろ!
焦らなきゃ最善が自然と見えてくるはずだ!」
ディフェンスに入りながらも、私はその声に耳を傾けた。
姿は見えないその声に。
キャプテンの声を聞いていると、何故か不思議と気持ちが落ち着いてくるんだ。
「抜かれるわけがない。丁寧に対応すれば、相手の全てが見えるはずだ」とさえ、思ってしまう。
「その時点で。今の自分に。
出来ると思える最善のことをしろ!
それが出来れば文句ない!」
キャプテンのその言葉を、私含め他の4人はどう受け取るか。
それは人それぞれだけど、私は考えた。
“今の自分に出来ること”を。
だけど、これだけはきっと、史奈に向かって言ったんだろう。
今まさに、相手チームに止められて。
憤りを感じている史奈に。
だから史奈、考えろ。
“今の自分に出来ること”はなんなのか。