第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
史奈の一投によって、敵陣に組まれたゾーンディフェンスは崩された。
紗恵に止められていた相手選手2人も、もう史奈を止めようとしなかった。
そして…
「おいおい、ほんとに大丈夫だったのかよ?!」
ゴール下に向かって、そう史奈が声をかけたかと思うと。
敵陣の中から1人…
敵に引き止められ、そして敵を引き止めていたキャプテンが。
相変わらず落ち着いた様子でこちらに歩いてきた。
「言っただろ。“上手いことやる”って」
そう口にしたキャプテンは、史奈が心配するほど参っていないように見える。
「やっぱさすがだな?!」と感心しながら、キャプテンに駆け寄る史奈の背中を見ていると。
同じ光景を見ているであろう紗恵が、隣から話しかけてきた。
「まるでお姫様を救出する、王子様だな?」
『この状況だと、“姫”が敵陣の中で
応戦してんじゃねぇーか。いいのかよそれで』
「“王子”ってあの馬鹿のことかよ?」って、言ってやってもよかったんだけど。
それよりも先に、そっちの方が口をついてしまった。
その掛け合いが、史奈とキャプテンにも聞こえていたんだろうな。
史奈がキョトン顔でこっちに振り返った。
「え?“生贄”じゃねぇーのか?」
「お前までその理論振りかざすのかよ?!」
視線を上げた先にいる史奈の言葉に反応するように、キャプテンも声を荒げていた。
史奈(こいつ)、私がキャプテンに“囮”から“生贄”に訂正させたの聞いてたな?
それが分かった時…
なんとなく「この馬鹿、どこまでおちょくれのかな?」と思い、私は口を開いた。