• テキストサイズ

宵闇の明けと想ふは君だけと〈中学編〉

第5章 栄光の目前  〜決勝トーナメント準決勝〜


●藤堂 天● 〜東京体育館〜


史奈の一投によって、敵陣に組まれたゾーンディフェンスは崩された。
紗恵に止められていた相手選手2人も、もう史奈を止めようとしなかった。


そして…


「おいおい、ほんとに大丈夫だったのかよ?!」


ゴール下に向かって、そう史奈が声をかけたかと思うと。
敵陣の中から1人…


敵に引き止められ、そして敵を引き止めていたキャプテンが。
相変わらず落ち着いた様子でこちらに歩いてきた。


「言っただろ。“上手いことやる”って」


そう口にしたキャプテンは、史奈が心配するほど参っていないように見える。


「やっぱさすがだな?!」と感心しながら、キャプテンに駆け寄る史奈の背中を見ていると。
同じ光景を見ているであろう紗恵が、隣から話しかけてきた。


「まるでお姫様を救出する、王子様だな?」

『この状況だと、“姫”が敵陣の中で
 応戦してんじゃねぇーか。いいのかよそれで』


「“王子”ってあの馬鹿のことかよ?」って、言ってやってもよかったんだけど。
それよりも先に、そっちの方が口をついてしまった。


その掛け合いが、史奈とキャプテンにも聞こえていたんだろうな。
史奈がキョトン顔でこっちに振り返った。


「え?“生贄”じゃねぇーのか?」

「お前までその理論振りかざすのかよ?!」


視線を上げた先にいる史奈の言葉に反応するように、キャプテンも声を荒げていた。


史奈(こいつ)、私がキャプテンに“囮”から“生贄”に訂正させたの聞いてたな?


それが分かった時…
なんとなく「この馬鹿、どこまでおちょくれのかな?」と思い、私は口を開いた。

/ 276ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp