第1章 二人は一緒
石畳の長い道を歩き、着いた和風の建物に私達は入ろうとしていた。
何で大きな屋敷だろうか。
「さ、入って。」
萎縮している私に、彼はそう言った。
「あのぉ…。」
「ん?」
「明日には治りますか?」
「…は?」
「明日用事があって…。」
推しの手渡しのグッズ販売だ。
私はこのために嫌いな仕事をしていたといっても、過言ではない。
大きな玄関か土間なのかよくわからないところで、私はすでに上がってるいる彼を見上げた。
「無理だよ。明日には治らないし、いつ治るのかもわからない。」
「えぇっ!?いつかもわからない!?」
やっと私はことの重大さがわかってきた。
推しに会えないってことでやっとリアルに感じてきた。
「この呪いをつけたやつを殺さない限り、この術式は解除できない。」
「えぇっ!?」
呆れたような声で彼は続けた。
「そんなに強くはない呪霊だけど、術式は複雑だから、解除しようにもできない。実はキミの心臓に1匹憑いてるんだけど…。」
彼は手のひらを私の方にかざした。とたん、何か身体の中から引っ張られるような感覚になった。
「ひ、ひゃ…」
ぶわっと私の中からハムスターくらいの小さい生き物が出てきて、キーキーと何か言っている。
ぼやっとしていてほとんど見えないけれど、確実にそこに何かいた。
「こいつは本体じゃないから、こいつを祓ったところで、何もない。」
ジュっと音がして、ハムスターのような生き物は消えていった。
「じゃあ…私、ずっとここに?」
「とりあえず状況をきちんと把握できるまではね。」
「ここは…?」
高い天井に純和風の佇まい。
「ん?ここは僕の家だよ。」
「!?」
「五条家の屋敷。」
自分の家を屋敷と言った。
「ごじょ…う?」
「あー、名前まだだったね。僕は五条悟。最高にかっこいい名前でしょ?キミは?」
「です…。」
出会って私たちは、やっとお互いの名前を言い合ったのだった。