第21章 もう一度貴方と(番外編3の3)
傑さんが立ち止まったので、私も歩くのをやめた。
「そんな必要なかった。」
私は自嘲気味に笑った。
「宿儺は一人じゃなかった。それに彼は器の中にいるだけ。虎杖くんがいる。すごいよね、虎杖くん。」
「…そうだね。」
「私が千年前に何もできなかったことを、彼は数ヶ月でやってのけた。」
「それは…の浄化もあったと思うよ。」
私は首をゆっくり振って目を閉じた。
流れる涙。
いくら宿儺が受肉したといっても、虎杖くんの中にいるだけ。
彼の身体はもうーー…
「昔も今もずーーーっと置いてかれて、突き放されてばっかりだ。」
いつか一緒にと夢見ていたけれど、私たちはいつの間にか違う道を歩いてた。
「宿儺は、を愛していたと思うよ。」
「…そうかな。」
「だから置いて行ったんだよ。きっとね。」
「でもそれは、阿曽巫女であって、ではないだろう?」
「……。」
「記憶は阿曽巫女で全部覚えてるもしれないけれど、この身体はもう違う人生の記憶があるはずだよ。」
「でも、阿曽巫女のは記憶を取り戻したら、もう一度……。」
そう続けようとしたけれど、私は思いとどまった。
つい最近一枚一枚蘇っていた記憶。
全部、あの人ーー…
消えていた五条さんの記憶が私の頭の中に駆け巡った。
阿曽巫女の生まれ変わりである私だって、偽物なんかじゃない。
でも、消された五条さんとの記憶だって、確かにあった。
「もう一度、宿儺に恋をしたいの?」
傑さんに聞かれ、私は深呼吸をした。
「…ちょっとだけ。」
「…」
私はおでこを傑さんの胸に押し付けた。
平安からの彼の顔。
憎まれ口のくせに、優しい声。
呆れながらも、そばにいることを許してくれた。
優しいキスも…
「数秒だけでいいの。その間にーー…忘れるから。」
そう言って私は目を閉じた。