第21章 もう一度貴方と(番外編3の3)
「は…」
テレビの方に視線を向けたまま、五条さんは私の名前を呼んだ。
「はい。」
「どこまで思い出したの?言いたくなかったらいいんだけど。」
ぽりっとポップコーンを齧り、五条さんが言った。
「正直言うと…一枚一枚の写真みたいにしか思い出せないんです。動いてないその時の場面って感じで。」
「ふーん。恋人らしいことはその中にあった?」
にまっと笑う五条さんに私は眉を寄せた。
「…内緒です。」
思い出してる。
そんなにたくさんではないけれど、手を繋いでた時とか…キスした時とか…
少しは思い出してる。
映画なんてもうみてなかった。
私は横の五条さんを見上げた。
座ってると言うのに、背の高いから五条さんを見る時はいつも視線が上に行く。
「内緒かーい。」
「でも、どの記憶も全部笑ってるんですよ?」
「…?」
「五条さんを思い出したときの、五条さんの顔。いっつも笑顔なんです。五条さんって底抜けにポジティブだし、きっとその時の私の顔も笑ってたんだろうなって…。」
五条さんは黙ると、私の膝のポップコーンを取り上げて机に置いた。
「……キスしていい?」
「えっ!?」
ソファの背もたれにあった五条さんの腕がいつの間にか私の肩に回っていて、ぐっと手に力が入れられた。
五条さんは目隠しをしていて、どんな顔をしてるのかわからない。
「が可愛いこと言うから。さすがに我慢しようかと思ってたけど、キスしたい。」
「…ご、五条さん。」
私は近い五条さんの胸を押してみたけれど、ただただ硬い筋肉があるだけで、意味は無さそうだった。
「ごめん、うそ。」
「うそ…?」
「我慢する気なかった。そのつもりでこの部屋連れてきた。」
もうストーリーもわけのわかなくなった映画の俳優の声だけが部屋に響いていて、私は近づいてくる五条さんの顔をただ瞬きもせず見つめるしかできなかった。