第20章 もう一度貴方と (番外編3の2)
私は月を見上げる宿儺に、もう少しだけ近づいた。
不快に思われたらきっと宿儺は怒る。
そのギリギリのところを攻めるように、私はちょっと触れるくらいまで近寄った。
「ねぇ…宿儺。」
「…。」
返事はない。
「なんで、あの時……私を連れてってくれなかったの?」
「……。」
「裏梅ちゃんは連れて行ったのに…私は連れて行ってくれなかった。」
あの時ーー…
平安の時、京の都から出て行く時、彼は私に告げもせず裏梅ちゃんと旅立った。
その後だ、彼を封印することになったのは。
「私……」
「黙れ。」
私は顔を上げ、宿儺を見た。
後ろには月が輝いていて、彼をうっすらと見ることができた。
想像していた記憶の中の宿儺は、手が四本で、目も多く、だけど背中の大きな人だった。
私を見る虎杖くんの目は、少し昔の彼に似ているかもしれない。
「何故貴様を連れていく必要があった。裏梅と違って人間と共に暮らすことも出来、その力で人間からも必要とされていた貴様を。」
「邪魔だった?…貴方とふざけて笑って過ごしてたあの日々…私はーー…」
「黙れ。…お前は昔も今も。ただの玩具で、暇つぶしでしかない。」
宿儺は私の後頭部を掴むと、無理矢理唇に噛み付いた。
「……んーー…」
前と違って、幾分か優しい口付け。
私は目を閉じ、宿儺の膝に手を添えた。
「ーー…美味い。」
「相変わらず、そればっかり。」
なんだか泣きたくなった。
宿儺はいつも孤独だった。
平安も、今も。
裏梅や私がいたって、いつも遠くを見て、強さを求め、世界を呪った。
ーーー…貴方は今、何を考えて月を見ていたの?
私はもう一度貴方と過ごしたい。
貴方をもっと知りたい。
貴方を一人にしたくない。
もう一度貴方とーーー…