第15章 二人の未来
[五条悟 上空にくる10分前]
私はナイフを持ち、悟さんを呼ぶ為に右手の人差し指を出した。
「おねぇーちゃん。」
私の背後からさっきまで泣いていた男の子が私を呼ぶ声がして振り返った。
男の子は、真っ直ぐ私を見つめ、口元だけ弧を描くと手のひらを私の背中にぴったりと当てた。
「え…?」
「身体、もらうね。」
ドンっとお腹の奥が沈む感じがして、私は膝をついた。
「…っ!?」
瞬きをしてふと視線を上げると、そこにはナイフを放り投げ、天に手を上げる私がいた。
「え…?私?」
声を出してみて、違和感を感じ喉に触れた。
私の声じゃない。
「あはははっ!!巫女の身体を手に入れた!!」
天を仰ぎ、大声で笑う私を、少し下の視点から見上げた。
「…え…え…?な、んで?」
自分の手を見た。
汚れ、小さなふっくらとした手。
服も靴も…
さっきまで一緒にいた6歳くらいの男の子になっていた。
「呪力も、何もかも俺のものだ!!この血を!身体を!何年待っていたことか!!!あはははは!!!」
私はこんな声が出せたのか、自分でも驚くような低音と声量だった。
「…はぁ…はぁ…」
息の仕方がわからなくなりそうだ。
高笑いをして喜ぶ私の体を、小さな身体から見上げることしかできなかった。
ーー…ど、どうしよう。
心臓はいまどっちと繋がっているんだろう。
この小さな男の子の心臓と悟さんが繋がっているなら、呼ぶことはできるけど、もし私の体のままなら、呼ぶことができない…。
私は試しに自分の口の中の唇を、血が出るくらい強く噛んだ。
とたん血の味が広がった。
「またそっちの体に戻るから。逃げるなよ。」
首だけをぐるんっと私の方に向け、私の体のそいつは低い声で言った。
ぞっとした。
「一度、動かないよう浄化とやらを使ってやるか。」
この男の子は、どんな状態なのだろうか。
元々は人間の体なのか。それとも呪霊なのか。
もし、呪霊なら…浄化が効いてしまう。
私の体は手のひらをこちらに向けてきた。
「…ちっ。浄化までは使えないか。」