第10章 二人で仙台
「“阿曽”と言うのは村の名前だ。妹の名前は千歳【ちとせ】。」
「人の名前じゃないんですか?」
「あんたの母親がそう呼んでいたんだろう。小さい頃に何度か遊んでいたから。変なものが見えるもの同士話しがあったんだろうよ。気色悪い。」
祖母の言葉に私は口を開けた。
ーー…母さんも見えていたんだ。呪霊が。
悟さんは、私の背中を優しく撫でてくれた。
祖母の言葉にショックを受けたと思ったのかもしれない。
母のことを“気色悪い”と言われても、私は大して何も感じなかった。
そんなことよりも、母は昔から呪霊が見えていたことの方が驚いた。
ーー…浄化の力もあったのだろうか。
「阿曽はどこにあるんですか?」
「岡山だよ。」
と、遠いっ!
「岡山南部の小さな村だ。そこの千歳なんて名前は一人だけだろうよ。結婚もせんと一人住んでるんじゃないかい。そこに住まなきゃ行けないとか言って、変な妹だよ。」
…住まなきゃいけない?
「用は済んだかい。」
「あっ、ありがとうございました。あの、これ良かったら…。」
私は横浜の駅で買ったお土産を差し出した。
「…元気にしてんのかい。」
紙袋を受け取りながら、祖母は小さく私に言った。
「はい。とっても元気です。」
「娘の若い頃に似てる。アイツが追いかけてくると、逃げるように神奈川の田舎にいったが、結局事故…。きっとバケモンに殺されたんだろ。車があんな潰れ方したんだ。妹もアイツが来ると、よく叫んでた。」
アイツがなんなのか最後まで聞きたくもなかったけどね。
と、祖母は冷たく言った。
「ーー…アイツ?」
「詳しくは知らないよ。千歳に書くんだね。」
ぷいっと花壇へ視界を戻した祖母はそれ以上話してはくれなかった。
「ありがとうございました。」
ーーまた。と言う言葉を飲み込んで、私は悟さんに振り返った。
「もう、いい?大丈夫?」
「うん。“阿曽”に行こう?」
私は歩き出した。
もう、きっとここには来ない。
悟さんを後ろにタクシーに向かって歩いていると、敷地を超えた時点で、私の視界がガラッと変わった。
「…え?」
瞬きをすると、私は部屋の中にいた。