第9章 二人で切り抜けろ
「荷物持ちますよ、子鹿ちゃん。」
「子鹿じゃないって。」
ホテルの部屋を出ながら私は、お言葉に甘えて荷物を悟さんに渡した。
「もう、震えてないもん。」
「無理させてごめんね。」
廊下を歩きながら私の頭に唇を落とす悟さんの脇腹をグッと押し返した。
エレベーターを降りて悟さんはカードキー片手にフロントに向かった。
私も彼の後ろについていく。
フロントで何やら話をしている悟さんをチラ見しながら、私は近くの柱にもたれかかった。
「ーー…足痛いな。」
昨日ずっとだったから、足も腰もずっと筋肉痛みたいだし、ダルい。
「浄化の巫女だな。」
「…っ!」
柱の影から話しかけられ、振り向こうとした時にはもう首に腕が回ってきていた。
手首を掴まれ、引き摺られ、抱き抱えられてるのがわかる。
声を出したくても、出ない。まるで、宿儺の契約の時みたいに口が全く動かなかった。
ーー…こわい
私は術師の前ではほんとうに無力だ。
■□■□■□■
五条悟は朝から気分が良かった。
なぜ気分が良いかなんて、分かり切っている。
鏡の前で自分の首もとばかり気にしてるの後ろ姿を見ているからだ。
の首元には五条が残した、赤い歯形。
噛み付くつもりはなかったが、あまりの小動物ぶりについ噛みついたのだ。
別にはそこまで小柄女性ってわけではないが、五条の前では小さく見えた。
ムキになって殴りかかってくるところとか、呪術に対してあまりに無知で無垢なところとか、そのくせ誰にも気づかれないところをは指摘してきたりする。
五条はそんなに、部屋から出ながら“子鹿”と揶揄った。
そしてまたムキになってあたりもしない肘鉄を喰らわせようするのが、愛おしくてたまらなかった。