第9章 二人で切り抜けろ
私は朝、鏡の前で出発前のチェックをしていた。
「朝から可愛いちゃん、準備できた?」
「……。」
「歩ける?」
「震えてますよ。」
「くくくく。まじで子鹿になってんじゃん、ウケる。」
私はむっと後ろに立つ悟さんを鏡越しに睨みつけた。
「服、首元までボタン留めてっ!」
「んー?」
「…歯形が。」
昨日悟さんに噛み付かれたのが傷になって、悟さん本人にもついてしまっていた。
傷を共有するのだから、私と同じところだ。
悟さんは鏡に近づいて首元をひらいた。
「ほんとだ。自分の歯形とか流石に嫌だな。」
そういうと、悟さんは手をかざしてさっと傷を直した。
「ん、も。」
「呪術ってなんでもありだね…何度見てもすごいや。」
自分の首元の傷が消えていくのを見ながら私は言った。
「軽い傷はいけるけど、さすがの僕でも反転術式で大きな傷を治したり腕をつけたりは無理だからね。他の術師に頼まないといけない。」
「そうなの?」
「自分のは治せるけど、他の人は治せない。」
自分のを治せるだけでも充分すごいと思うが、心臓が繋がってる限りやっぱり私は大きな傷を負わない方がいい。
「気をつけるね。」
後ろにいる悟さんを振り返り見上げた。
サングラスをかけ、キャップを被っている。
帽子姿ははじめてで、私はまじまじと眺めてしまった。
「そんな見られたら照れちゃう。」
「帽子珍しいね。」
頬に手をやりくねくねとふざける悟さんを無視して私は言った。
「呪詛師や他家の術師は僕の顔知ってるからね。帽子とサングラスだけじゃあ隠しきれないイケメンオーラだけど、少しでもね。」
「ほんと、隠しきれないね。」
いっそ髪の毛染めちゃったほうがいいかもしれないけど、なんとなくもったいなくて、私は提案しなかった。