第11章 *恋の計算*〜伊月俊〜
「…で、大変な事なんですけど。」
「うん。」
「…数学、五十三点でした。」
今の時期とその内容から、あ、定期テストの結果か、と分かった。
「そういえば、遠野は数学が苦手だったな。でもまぁ、あれだけ課題が分からないのに五十点取れたのは、すごいと思うよ?」
前にも確か、こんな事があった。
あの時は課題が全く分からないって言ってて、俺が手伝った結果、プリントの半分終わるのに三十分かかったんだっけ。
それに比べたら、五十点はすごい方だと思うけど。
「ええっ、全然ダメですよー…。ていうか、よりによって五十三点って最悪じゃないですか!」
「何が?」
「だって、ゴミですよ、ゴミ!五と三で、ゴミ!」
ああ、そういう意味ね、と苦笑する。
クラスメイトにでもからかわれたんだろう。
大方男子。
そういうのって、反応すれば相手の思う壺なのに。
「まぁ、五三(ゴミ)じゃなくても、点は悪いんですけど…。」
「…じゃあ、教えようか?」
多分、この言葉を期待してたんだろう。
遠野はキラキラと目を輝かせて、いいんですかっ!と言いながら、俺の正面へと移動した。
「じゃあ、今週の日曜日でいいかな?」
「は、はいっ…!」
毎回思うんだけど、遠野って、喜ぶ時はすごく子犬っぽい。
可愛いなぁ、と思いつつ遠野の頭を撫でると、
「えへへっ、伊月先輩大好き!」
と言って、また抱きついてきた。
多分、こういうのは友達にもやるんだろう。
でも、それだけで俺はドキドキしちゃって…。
「…俺も、だよ」
遠野に聞こえないように、小さく呟いた。