第9章 *クラスメイト*〜青峰大輝〜
ふと目を覚ますと、見えたのは夕焼けのオレンジに染まる空。
でも、聞こえてきたのは…
「ひっ…う…っあ…」
隣にいる、遠野の泣き声で。
何で泣いてんだよ…?
「…遠野?」
俺が名前を呼ぶと、ビクッと反応する。
それからは、声も出さずに、顔も隠しっぱなしで動かなくなった。
「…何でもないから…」
「んなわけねぇだろ。泣くほどの事があるんだろ?」
「…青峰君に言ったって、何も出来ないよ」
確かに、何でも出来るわけじゃねぇ。
けど…
「それでも、俺は遠野を助けたくて…」
上から目線、って事は何と無く自覚してた。
でも、これは、そういう気持ちとは別の気がする。
「だから、俺に…」
「青峰君のせいなのに。」
きついその言葉は、怒るわけでもなく、落ち込んだ声色で放たれた。
「…助けたいとか言うなら、ちゃんと近くにいてよ。」
「いつもいるだろ、ここに。」
「違うよ…それは、私が近くにいるだけだよ。」
じゃあ、と遠野は続ける。
顔を上げて、涙目で、赤いその顔が見えた。
「…私がここに来なくなったら、どうなの?」
「…来なくなったら?」
「そうだよ。普通に授業受けて、お昼ご飯も教室で食べるの。覚えてる?青峰君とサボる前は、そうだったんだよ。」
ああ、覚えている。
毎日早めに登校しては、授業前にわざわざ俺を呼びにきた事。
昼休み前になると、屋上で食べりゃいいのに、教室に無理矢理連れ込まれて昼飯を食べた事。
放課後になると、部活が休みの日は俺の練習を応援しにきてくれた事。
テツとも仲良くて、少し妬いた事。
…遠野と初めて出かけた日や、毎日色んな話をした事も。
今じゃもう懐かしい、そんな光景を思い出す。
そうだ、あれが普通だった。
なのに、遠野が変わった。
今、遠野が元に戻って、俺を呼びに来なくなったら、近くなんて言えない。
俺達の関係が、そんなギリギリのものだと思わなかった。